研究概要 |
蝸牛内静止電位(EP)がバナジウム化合物の中でも酸化数5のバナデイトで外リンパ腔を潅流することで低下する事を電気生理学的に明らかにした. その作用機序として血管条内のNa,K-AT Paseの阻害作用によるものと推定し検討を加えた. 先ず血管条を含む蝸牛管側壁組織をホモゲナイズし, 更にHPLCにて精製した後LumiphotometerにてNa,K-ATPase量を測定した. 回転別には基底100, 第2回転120, 第3回転127の対活性を有し, また蝸牛全体では, Na,K-ATPaseとother ATPaseの活性割合が65:35であることを明らかとした. この結果はEP維持にNa,K-ATPaseが大きく関与していることを意味する. 更に測定精度を高めTotal ATPase活性が4.25×10^<-11>moleATP/mg dry weight/minであり, Ouabain sensitive ATPaseは2.73を占めることを知った. 蝸牛でのNa,K-ATPase活性に対してウワバインは0.5μMの投与で, ほヾ完全にその活性を抑制するのに対して, バナデイトは0.2μMの投与で同様にほヾ完全に抑制することを明らかにした. バナデイトはウワバインと同様に微量でATPase阻害作用を示すといえる. 次にバナデイトのATPase阻害作用に対するアスコルビン酸の拮抗作用を実験的に観察した. その結果10mMアスコルビン酸10μlの投与で阻害活性が48%減弱し, 20mM益ではほヾ完全に消失することを明らかにした. このようなバナデイトの血管条Na,K-ATPase阻害作用は, E_2-Pcomplex形成の際にPO_4部へVO_4が替って結合するためであり, アスコルビン酸によってバナデイトが還元されそのE_2との親和性を失なうとATPase活性が回復しEPも回復するものと推定した. 本研究の結果, 内耳の血管条ではNa,K-ATPaseが重要な役割を演じているが, バナデイトはその酵素活性を著しく阻害する生理活性物質として重要な意義を持つものと結論される.
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