研究概要 |
薬物代謝は, 薬物のバイオアベイラビリティや副作用を理解する上で重要である. 薬物代謝は通常, 侵入してきた薬物に極性基を導入する第一相と, 極性基を導入された薬物に作用して抱合化合物をつくる第二相の2段階を経て進む. 本研究では第一相と第二相の両方を取り上げ, 以下の結果を得た. (1)毛様体は眼球組織のうちで最も薬物代謝酵素活性の高い組織である. この組織のチトクロームP-450の含量を測定したところ, 肝臓の3%程度の含量で, この含量は大気と常時接している肺とほぼ同程度であった. チトクロームP-450に関係するミクロゾーム電子伝達系成分についても定量した. (2)ウサギにフェノバルビタールを繰り返し投与して, チトクロームP-450の誘導を眼内各組織について免疫組織化学的に調べた. 数日内の投与で, 角膜上皮, 結膜, 毛様体上皮に誘導がみられた. 特に, 毛様体での誘導が著しかった. フェノバルビタールの投与を1週間以上続けると, 毛様体上皮は変性し, チトクロームP-450は毛様体に検出できなかったが角膜上皮や結膜では検出できた. そのような例では, 水晶体上皮にも検出でき, 水晶体での誘導には毛様体の変性が先行することが分かった. (3)眼圧降下薬であるメタゾラミドのグルタチオン抱合に, グルタチオンS-トランスフェラーゼは触媒しないことが分かった. 抱合産物の化学構造を質量分析と赤外線吸収スペクトルとから推定した. この抱合化合物はγグルタミルトランスペプチターゼの基質になった. (4)解熱薬であるアセトアミノフェンやその誘導体を株化した水晶体上皮細胞(TOTL-86)の培養液中に入れ培養し, それらの細胞に対する毒性作用を致死率を指標として調べた. 一級アミノ基や水酸基を持つものは毒性が強かった. アセトアミノフェンの毒性作用は, チトクロームP-450の誘導試薬であるフェノバルビタールの共存によって少し増強した.
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