研究概要 |
[目的]この研究は, 非脱灰切片を作成する必要があると考えられているTC系抗生物質による硬組織標識を, 標本作成過程における条件を種々に変更して, 作成簡単な脱灰切片上でも観察可能にするべく工夫, 検索したものである. [方法および結果](1)固定時間. 予め還流固定された硬組織を, さらに5週間固定を追加した材料のみにTC標識を見ることができた. これは, 硬組織への固定液の浸透は予想外に悪いことを示しているもので, 硬組織中の有機質に結合した微量のTC剤を可及的に保持するためには, 時間をかけて固定液をよく浸透させ, 有機相を強固に固定する必要があることを示唆している. (2)二重固定. ホルマリンにて5週間浸漬固定した材料にたいし, さらに, 組織内のタンパク多糖をよく固定することが知られている塩化シアヌル処理(CC)を追加したものと, 未処理のものを比較すると, 用いた一部のTC剤ではCC処理によりやや強い標識の保持を得ることができたが, その他のTC剤では差が明らかでなく, 二重固定の効果を疑わせる結果となった. (3)脱灰の種類. 脱灰法の違いによる影響を見るために, ギ酸脱灰とEDTA脱灰を比較した. EDTA脱灰標本では好結果であったが, ギ酸による脱灰切片におけるTC標識はいずれもきわめて弱くほとんど陰性の結果を示した. (4)投与TC剤の種類. 上記のごとく, 5週間の浸漬固定を行なえば, 脱灰切片上にTC標識を保持, 観察することができたが, 使用した5種類のTC剤の全てに認められたわけでなく, DMCT.TCおよびDC3種類のTC剤に限られていた. この種のTC剤は, 皮膚の有機質基質へ結合することにより起こる光線過敏症化をおこし易いものとして知られている. したがって, これらTC剤は硬組織の標識の際にも, また, 無機相だけでなく有機相へよりよく結合すると考えられ, これが, 脱灰切片上においてもTC剤がよく保持された理由と考えられる.
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