研究概要 |
付着機構解明の基礎的実験による成果の概要を延べる. 初期の計画であった実験動物よりの株化細胞は, 得られた細胞が極めて不安定で使用にたえず, 結局ヒト歯肉由来の線維芽細胞Gin-1,(Gingival fibroblast,apparent normal;human)ATCC,CRL 1292を宿主細胞とし, 付着対応細胞として〓蝕原性レンサ球菌のStreptococcus mutansを中心とする各菌種間と線維芽細胞Gin-1にたいする付着機構について, 電子顕微鏡学的解明を行うこととした. 61年度は線維芽細胞Gin-1の培養と継代安定化を目的としDulbecco's modified Eagle mediumに10%のウシ胎児血清を添加した培養液を, ディッシュに3ml分注し, 37°C, 5%COz-95%air, 飽和水蒸気の条件で, 25000cells/cm2の細胞濃度で継代が可能となった. 使用菌株についても, 61年度にはS.mutans ACTT 25175,S.oralis ATCC 35037,S.sanguis ATCC 10556,S.salivarius ATCC 25975,そしてS.mitis ATCC 33399について同定基準にもとずく性状試験の確認と, 細胞以外への付着性の確認実験を行なった. 62年度は細胞付着実験に着手し, 電子顕微鏡試料作製を行った. SEM試料は2%グルタールアルデヒドと2%オスミック酸で2重固定, エタノール系で脱水, Auコーティングし, SEM(X-560,日立)加速電圧20kVで観察した. TEM試料は2%グルタールアルデヒドと2%オスミック酸で2重固定, エタノール系で脱水, Auコーティングし, SEM(X-560,日立), 加速電圧20kVで観察した. TEM試料は2%グルタールアルデヒドで固定, 1%酸化オスミウムー0.1Mカコジル酸ナトリウムー塩酸緩衝液pH7.2, 4°C, 16時間固定, エタノール系で脱水, エポキシレジンで包埋, 60°C,72時間, 重合した. 超薄切片は, 2%酢酸ウラニルとクエン酸鉛で染色, TEM(H-800)で観察した. その結果, SEM,TEMの超微細構造から, 細胞への各菌体細胞の付着は付着力または積極性では, S.mitis,S.salivarius,S.sanguis,S.oralis,S.mutansの順であった. S.oralisは宿主細胞のmicrovillusとの関連が考えられ, 他の菌種とは異なった像が観察された. S.mitisはGin-1細胞に親和性の高い付着を示したが, 平滑面での〓蝕に最も関連の深いとされるS.mutansが本実験に用いた何れの菌種よりも付着性が弱い事など, 多くの興味ある所見がえられた.
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