研究概要 |
近年の癌化機構の細胞生物学的, 遺伝子工学的研究は, 増殖因子レセプター群の特性変動が細胞の増殖制御異常をもたらすことを示唆している. 事実発癌遺伝子群の多くがかような増殖因子レセプターを何らかの形でコードしかつ発現制御しており, 細胞の癌化に伴うレセプター数の増減現象も広く見い出されて来ている. 本研究では, 有効な上皮癌指標としての上皮細胞増殖因子(EGF)レセプターの特異的増加に着目し, 分担者(川本)がはじめて調整したEGFレセプターに極めて特異的なモノクロナール抗体(IgG#528)を用いる簡易迅速な定量法を, 早期診断法の基本的前提として緊急確立することを最大の目標とした. 口腔癌の大半は急性の扁平上皮癌であり, とくに粘膜疾患などを伴えば原発部位の所見よりの早期発見は必ずしも容易ではない. 特異抗体を活用する細胞生物学的定量方式の援用のみが早期発見への唯一の途と判断される. 本研究で最終的に確立されたEGFレセプター定量法は, 従来のラジオイムノアッセイ法と感度, 精度の点で少なくとも同等かそれ以上でありながら, ^<125>Iなどの使用を避けたアビジンービオチン発色定量方式による簡易迅速法である. 湿量100mg前後の組織検体について, 有意差とされる測定値の変動巾が従来の10-100倍に対して2倍を超えれば, 本法では数値化して表現可能となし得る. また本法により100-200検体の検定所用時間は, 検査室条件下では1〜2日以内である. この方法の駆使により, まとまった多検体の検定が現に実現しつつあり, 早期発見のため本法が役立つ見通しが立った. さらにより早期の発見の目的に応えかつ腫瘍の悪性度や転移度との関連性の確立のため, より微小な変動巾の有意検出という今後の要求課題に対しても, 本法は今後の検討により対応し得ると判断される.
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