研究概要 |
成人性歯周炎の有力な原因菌として注目されているBacteroides gingivalisの歯周ポケット内への定着過程には本菌種と他のグラム陽性細菌との結合が強く関与していると考えられている. そこで, 本研究ではB.gingivalisの口腔レンサ球菌に対する凝集機構を明らかにするために, まずB.gingivalis381株の赤血球凝集活性に焦点をあて, 赤血球凝集素を分離・精製し, 次いで, その知見をもとに本菌株の菌凝集因子を分離・精製し, その性質を調べた. B.gingivalisの赤血球凝集素は培養上清を超遠心処理し, 得られた沈渣をTriton X-100の存在下でセファローズCL-4Bによるゲル濾過クロマトグラフィー, 続いて, アルギニンアガロースによるアフィニティークロマトグラフィーを行うことにより分離・精製された. 種々の阻害物質による赤血球凝集阻害実験の結果, 赤血球凝集活性は糖では阻害されないが, アルギニンやアルギニンを含んだペプチドによって特異的に阻害された. B.gingivalis381株の菌凝集素を, 上記と同様の精製過程により分離・精製したところ, 赤血球凝集活性と菌凝集活性とは全く同一の画分に溶出された. 精製菌凝集標品は主にpI4-0の酸性タンパク質よりなり, 乾燥重量あたり81%のタンパク質と8%の中性糖を含み, 核酸およびリポ多糖はいずれも1%以下の含量でほとんど検出されなかった. また, この標品には主として推定分子量約24,000, 37,000および44,000のサブユニットを有するタンパク質が含まれていた. そして, この標品は電顕的に構造物としては示し得なかった. 菌凝集活性もまたアルギニンやアルギニンを含むペプチドによって特異的に阻害されたことから, 本菌株の菌凝集素はレクチンではなく, タンパク質に存在しているアルギニン残基を特異的に認識する物質であることが示唆された.
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