研究概要 |
遺伝子操作の手法のうち最も重要なものの一つと思われる試験管内突然変異法のうち, 未開拓の分野と思われるのは, 遺伝子の比較的広い範囲(数百ヌクレオチド)にランダムに効率よく変異を起す方法である. 我々は強い変異原性を持つヌクレオシドアナログ, N^4-アミノシチジンを見出し, その変異メカニズムを検討してきた. このアナログは細胞内でリン酸化を受け, さらにデオキシトリリン酸体N^4+aminodeoxycytidine triphosphate(dC^<am>TP)となってDNAに取込まれる際に複製エラーを引起して変異へと導いていると思われる. 実際, 放射性のN^4-アミノシチジン存在下に細菌や動物細胞を培養するとそのDNA中にN^4-アミノシトシンとして取込まれた. また, トリリン酸体dC^<am>TPをin vitroでΦ×174ファージの複製型2本鎖DNAに取込ませることにより, 突然変異が起ることは既に見出している. そこで, 変異のメカニズムをさらに詳しく検討するために, M13mp2ファージを用いて変異のスペクトルを検討した. M13mp2ファージを大腸菌中で増殖させ,N^4-アミノシチジンを取込ませて変異をみるin vivoの実験では, 93株の変異部位を同定した. その結果, 塩基置換, 中でもtransition変異のみが検出された. AT→GCとGC→ATの再変異はほぼ同様に生じていた. これは, 互変異性によるN^4-アミノシトラシンーアデニンのmispairにより変異が起こるというモデルによく一致する. さらにM13mp2ファージより一本鎖DNAを抽出し, オリゴヌクレオチドをアニールしてin vitroDNA合成を行って, dC^<am>TPを取り込ませることにより変異が引起こされることを示した. 変異体のシークェンシングにより鋳型のA, または, Gがそれぞれ, G, またはAに変異することが示された. さらに, 種々の金属イオンの添加などの条件検討により二つの変異頻度を高めれば, 試験管内突然変異の応用が可能となると思われる.
|