研究概要 |
家族性アミロイドポリニューロパシーは常染色体性優性遺伝病であり, 全身性のアミロイドの沈着と末梢神経・自律神経障害を主徴とする疾患である. 原因はトランスサイレチン遺伝子の異常と考えられ, 日本人型では30番目のアミノ酸がバリンからメチオニンに置換している. この置換によりアミロイドとして沈着すると考えられている. 本研究ではアミロイドの沈着機構, トランスサイレチン(TTR30)遺伝子以外の要因を解析し, 新しい治療法を開発することを最終目標とし, この疾患のモデルマウスの作製を試みた. このため2つの遺伝子, 即ち約600塩基対上流域を含む遺伝子(0.6-hTTR30)とメタロチオネインのプロモーターをつないだ遺伝子(MT-hTTR30)を準備し, 純系であるC57BL16マウスの受精卵にそれぞれ導入した. トランスジェニックスマウスを各々9匹及び5匹を得て, これらの解析から次の様なことが明らかとなった. (1)両系統のマウスでの血中のTTR量はそれほど差がない. (2)前者では肝のみに発現し脳の脈絡叢では発現していなかった. 後者では肝, 脈絡叢, 心, 精巣でよく発現し, 腎や骨格筋でも少し発現していた(3)肝や脈絡叢での発現の場合, ヒトTTRとマウスTTRとが雑種の四量体を形成する(4)従って両系統においてヒト変異TTRのみからなるホモ四量体の濃度は両系統間で著しく異なり, 前者では3μg/dl, 後者では1mg/dlと計算された(5)アミロイド沈着は後者の系統でのみ認められ, 生後6ケ月頃より小腸の粘膜下より始まり, 年令とともに沈着部位は胃や大腸へと広がり量的にも増大し, 生後1年では腎の糸球体にも沈着が認められた. 以上からヒト変異TTRからなるホモ四量体の存在がアミロイド沈着に重要であることが示唆された. 脈絡叢での発現の重要性も否定できていないが, このため現在約6Kb上流域を含むTTR遺伝子(6.0-hTTR30)を導入したトランスジェニックスマウスを作成中である.
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