研究概要 |
本研究により, 慢性疼痛に関与する神経ペプチドの動態とそれに対する鎮痛薬の作用について, 以下の諸点が明らかになった. 1)アジュヴァント関節炎ラットを慢性疼痛モデル動物として用した. 2)後根神経節中の免疫活性サブスタンスP量は関節炎ラットの方が対照ラットよりも有意に高かった. 脊髄後角中のそれは逆に前者の方が低かった. 3)軸索輸送阻害薬コルヒチンでサブスタンスPの神経節から終末への輸送を阻害すると, 関節炎ラットの神経節では著しいサブスタンスPの蓄積が認められた. 4)関節炎ラットの腰髄後角における一次知覚神経終末からのサブスタンスPの自発性遊離な対照ラットのそれよりも有意に増加していた. また, 関節炎ラットでは関節部屈伸運動によってサブスタンスPが多量に遊離した. 5)モルヒネの全身性投与により一次知覚神経終末からのサブスタンスP遊離を抑制すると, 関節炎ラットにおいてのみ脊髄後角中のサブスタンスP量の増加が認められた. 6)カルシトニン遺伝子関連ペプラドのラット脊髄くも膜下腔内注射により, 対照ラットにおいても機械的圧刺激に対する疼痛閾値は有意に低下したが関節炎ラットにおいては一層顕著な低下が認められた. また, この作用はサブスタンスP拮抗薬で抑制された. 以上, アジュヴァント関節炎ラットにおいて, 疼痛刺激によりサブスタンスP含有一次知覚神経が持続的に活性化され, サブスタンスPの生合成・軸索輸送・脊髄後角内終末からの遊離の促進など著名な動態の変化が認められ, 鎮痛薬はこれら動態の変化を抑制すること, カルシトニン遺伝子関連ペプチドもサブスタンスPと同様に慢性疼痛の伝達に関与することを明らかにした.
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