研究概要 |
我々は, 61, 62年度の研究によりミトコンドリア蛋白質前駆体のミトコンドリア内への輸送機構に関し次のような結果を得た. (1)化学合成したラット肝オルニチンアミノ基転移酵素(OAT)前駆体の付加ペプチド(34個のアミノ酸残基よりなる)は, 内膜のポテンシャルに依存してミトコンドリアマトリックス内に輸送される. (2)この実験系を用いて, ミトコンドリア蛋白質前駆体がミトコンドリア内に輸送される際に要求される細胞質因子を兎網状赤血球溶血液より約2万倍に精製した. (3)細胞質因子は, 熱あるいはプロテアーゼ処理により失活するが, RNase処理では失活しない. (4)細胞質因子と付加ペプチド並びにOAT前駆体は複合体を形成する. (5)OAT付加ペプチド並びにOAT前駆体とミトコンドリア外膜受容体との結合は, 細胞質因子に依存する. (6)OAT付加ペプチドのミトコンドリア内への輸送は, 至適濃度の細胞質因子で強く促進されるが, 過剰の細胞質因子の存在により阻害される. (7)OAT前駆体の輸送には内膜のポテンシャルと共にATP(GTP)が要求される. しかし, OAT付加ペプチドのミトコンドリア内への輸送は, 内膜ポテンシャルにのは依存し, ミトコンドリア外のATP(GTP)を要求しない. 以上の結果及びその他の知見から付加ペプチドあるいはOAT前駆体は, 最初に細胞質因子と複合体を形成し, 外膜の前駆体受容体に認識され結合する. その後ミトコンドリア外膜と内膜の密着部を通過してマトリックスに輸送されると考えられる. また, この外膜と内膜の密着部, すなわち前駆体輸送チャンネルの誘導形成に細胞質因子が関与する可能性, 及びこの細胞質因子がATP関与でミトコンドリア前駆体のコンホーメーションを輸送に適したものに転換する活性を持つことが示唆されたので, これらの点を更に詳しく解析して, ミトコンドリア蛋白質前駆体の細胞内局在化機構を明らかにすることを試みている.
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