研究概要 |
生物物理学的測定法としての従来の電子顕微鏡観察法の最大の欠点は, その時間分解能の悪さにあった. しかし, 最近の液体ヘリウムを用いた急速凍結法の進歩により, 電子顕微鏡像の時間分解能は飛躍的に向上し, ミリ秒のレベルに達した. 我々は, 種々の動的な生命現象において, 生理学的測定と急速凍結法を厳密に組み合わせれば, これまでとは「質」の異なった情報量の多い電子顕微鏡像が得られと考え, 本研究を開始した. 4種類の異なった材料を用い, 以下のような結果を得た. 1.短縮中のグリセリン筋の急速凍結:張力を測定しつつ, 短縮中の筋肉(ウサギのグリセリン筋)を急速凍結する装置を開発した. その結果, 等張性収縮下で短縮中の骨格筋におけるクロスブリッジの瞬間像を得ることに成功した. 等尺性に収縮している筋肉の中では, 全てのミオシン頭部がアクチンフィラメントの周辺に集まり, かつ, ミオシンフィラメント固有の周期(143A)を維持しているというのが1985年に発表した我々の主張であったが, 短縮中の筋肉でもこのミオシン頭部の配列がほぼ完全に保たれていることが分かった. 2.等尺性収縮中の生筋の急速凍結:カエルの生筋を電気刺戟をしてから種々のタイミングで張力変化を測定しつつ急速凍結する装置を開発した. その結果, 張力発生の直前に, 横細管と筋小胞体が解離するという驚くべき事実を発見した. 3.網膜の急速凍結:明および暗順応したイカ網膜を急速凍結する装置を開発し, 明順応中に微絨毛中のアクチンフィラメントが切れることが分かった. 4.神経軸索の急速凍結:イカ巨大軸索細胞骨格について分析を行なった. 以上, 本研究で得られた瞬間像は, 筋収縮, 興奮収縮連関, 光受容, 膜興奮の分子機構解明に寄与すると思われる.
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