研究概要 |
本研究の目的は, 残存する聴神経を直接電気刺激して音声を認識させる聾者用人工内耳の最適設計に関する基礎実験を行うことにある. 行った研究は以下の4点である. (1)人体の死体から取り出した内耳の蝸牛管内に電極を挿入し, 管内でどのような電流分布が生じるかを調べた. (2)上記の結果に基づき, 音声信号処理装置を開発し, 8チャンネル人工内耳装置患者による合成母音の認識実験を行った. (3)内耳を破壊しない方式として単電極型蝸牛外電気刺激による人工内耳を提案し, そのための新しい電極を開発した. (4)単電極方式で母音の弁別ができるような音声信号処理方式を提案し, 動物実験によりその有効性を確認した. その結果, (1)蝸牛管の内部から外部への刺激電流の流出経路を明確にするとともに, 管外では刺激電流が大きく広がることを見いだした. (2)この電流分布の広がりを抑えるために側抑制回路を付加した音声信号処理装置を作成し, 合成母音の認識実験によりその有効性を確認したが, 伝達情報量は従来の単電極法とあまり変わらないことを明らかにした. (3)単電極型人工内耳のための刺激電極として, 白金-イリジウム線の先端を生理食塩水を含むポリビニルアルコールゲル(高含水ゴム)で被覆したものを開発し, その電気的特性を把握するとともにモルモットによる動物実験を通じて生体適合性を確認した. (4)単電極型人工内耳のための音声信号処理方式として, 音声のピッチと第2ホルマント周波数を抽出しそれらを組み合わせて時系列刺激を作成する方法を考案し, モルモットの内耳に与えた刺激に対するインパルス応答から本符号化方式の有効性を明らかにした. また高度難聴者の片耳に電極を装着しこの符号化方式により電気刺激を行し, 本方式の有用性を確認した. 以上の基礎的知見が得られたので今後は単電極型人工内耳の安全性を検討し実用化を目指して研究を発展させたい.
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