研究概要 |
現代社会では, 国家賠償, 労災補償, 公害, 医療過誤, 消費者被害と補償, 企業倒産と補償, 刑事補償, 国際関係における補償等々, 種々の局面で補償問題が増大している. 国家は種々の局面でそもそも補償をすべきなのか, またするとしてその額はどの程度が妥当かについての決定を, 常に求められている. そうしたなかで, 従来ややもすれば福祉国家の名の下に無反省に国家の補償責任が膨張してきた側面がある一方で, 逆に必要があるのに補償が欠落している部分もあったのではないかと考えられる. 従来より, 補償に関する研究は少くはなっかったが, 特に最近になって数多くの研究が発表されつつある. しかしながら, これらはいずれも各分野ごとの研究にとどまっているといわざるをえない. 本研究は, これらの諸問題を総合的にとりあげ, 補償とは何か, という根源的問題への問いかけを通して国家と補償との関わりを明らかにしようとする試みである. その際, 国, 地方公共団体, 民間のそれぞれが分担すべき役割, 社会保障, 保険, 民事責任等の隣接制との比較検討にもとづく補償の救済原理, 責任原因, 給付方法, 給付方法, 給付額の決定, さらに補償と課税との関係, 国家補償と国際問題との関わり等について, 総合的に検討することにも留意した. 近年, 補償問題に関する外国法制を廻る議論は活発になっており, その紹介も散見されるが, 本格的な比較検討は未だ進められていない. 本研究は単なる外国法制度の紹介にとどまることなく, その批判的検討を通じて, 日本の法制度のあり方を再検討しようとするのである. 具体的には, 定期的に研究会を開き, 各専門領域の補償問題の報告について, 他の専門領域から光をあてて共通の認識を深める作業をおこなった. また, これらの作業, さらには, 実態調査等の作業を通じて, 補償問題を総合的に捉えようという努力を続けた.
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