研究概要 |
本研究では, (1)サッケード(飛越眼球運動)の大きさを決定するのは網膜上情報(網膜上における中心窩から視対象の像までの距離の情報)なのか, それとも視対象の空間における実際の位置なのか, (2)サッケードは一旦生じるとその軌導を変更できないパリスティック(弾導的)な運動なのか否かを検討した. その実験方法として, サッケードの生起時付近で瞬間的に提示された視覚刺激の知覚的な位置の判断, およびその視覚刺激に対する眼球運動(サッケード)反応の正確さや, 時間特性の分析が行われた. その主要な結果は以下のとおりであった. 1.サッケード生起時付近で提示された視覚刺激のみかけの位置は, 実際の位置とは異なる位置に定位された. この定位の誤りは, サッケード生起の約100msec前から, サッケードの後約100msecまで生じた. 2.サッケード生起時付近で提示された視覚刺激に対する眼球運動(サッケード)反応は, 視覚刺激の実際の位置とその網膜上位置に対応する位置のいずれに対してでもなく, 視覚刺激のみかけの(知覚的に誤って判断された)位置に向って生じた. この結果は, サッケード・システムに関する空間モデル(Spatial model)を支持する最近の研究結果とは一致しない. 3.サッケード反応の振幅おび潜時の分析から, サッケード・システムは非バリスティクであること, また並列的な処理が可能であることが示唆された.
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