研究概要 |
本研究では, 新生児期の生物学的なリスク性が後の様々な「障害」へと発展してゆ諸条件を探ることを目的として, ローリスク児およびハイリスク児とその母親との間で行われる相互作用において, 乳児の運動の神経生理学的特徴や行動様式, 母親の行動様式, そして乳児の母親に対する行動と母親の乳児に対する行動がお互いどのように対応しているかなどの点に焦点を当て, その具体的な展開と変化の過程について, 観察と分析を行った. そのために, 両者間で交渉の媒体となっているとみなされる行動(表情, 発声, 身体運動)をカテゴリー化し, その様態を, 研究の趣旨については知らない評定者の行動評定によって客観的に記述するとともに, その各行動の個体内, 個体間での共起関係などを算出する手法を採った. ローリスク児の母子対面場面の観察結果からは, 月齢変化にともなって, 乳児の母親に向けた行動が分化し, 母親からの積極的交渉のない状況での観察結果などを踏まえて, 母親にたいする志向性が次第に明確になってゆくことが示唆された. 一方, 乳児の行動にたいして交渉を維持しようとする母親の行動も, 乳児の認知・行動の様式に対応していることが示唆された. ハイリスク児との比較では, ローリスク児については, 初期段階から, 母親が働きかけると, 身体的な運動性を抑制させるとともに社会的な反応を示そうとし, 週齢が増すにつれて相互に随伴的になる傾向が示唆された. しかし, ハイリスク児については, 相互交渉過程のなかで全体として身体的運動性が抑制される傾向にあっても, 一層未熟であると考えらえる運動性は, 依然生起することが多かった. そしてこのような不完全に抑制されるだけの運動性が, 肉的な「均衡性」を崩してしまう原因あるいは促進剤として意味をもつことが, 他の施設での研究方法及びそれに基づく研究結果との照合のなかで, 示唆された.
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