研究概要 |
昨年度, 十分に資料を収集することができなかった農村地区の資料およびいくつかの都市の資料を加えて, 研究課題が示す地域差の検討がなされた. 岐阜県愛知県奈良県岡山県京都府の5府県それぞれにおいて, 大都会の衛星都市および純農村地区の小・中学校の生徒・児童を対象に道徳性に関連のあるいくつかの調査が行われた. 本研究費を交付された以前から続けられていたわれわれの道徳性および共感性に関する研究から, 日本人の道徳性研究には, 道徳行動が示される相手との人間関係が重要であることが指摘された. つまり内集団のメンバーには道徳性が示されやすいが外集団のメンバーには道徳性が十分に示されないのである. 真の道徳性の研究には対人関係のあり方にとらわれることなく自律的に判断された道徳性の測定が必要である. われわれはその目的のために自律性尺度を作成し, 信頼性・妥当性の検討を加えた. この尺度については地域差は見いだされなかった. 対人関係をはっきりさせた愛他行動尺度と自律尺度とを併用して回答された結果を分析して, 自律性の高いグループは, 内集団のメンバーにも外集団のメンバーにも愛他行動を示すが, 自律性の低いグループは内集団のメンバーに比較して, 外集団のメンバーには愛他行動を示す傾向が有意に低くなることが示された. 自律性が道徳性と関連する点については地域差は認められなかった. 「ソト」の人間と認されると, 道徳行動は抑制されやすく, とくに自律性の低いものは, その傾向がきわめて顕著であることが示された. 大都会の人びとは, 援助行動をあまり示さないといわれるが, 大都会で路いく人びとは互いに内集団のメンバーであることが少ないからであろうと示唆された. 道徳性に地域差はないことが明らかにされたが, これは意識の面にいえることで, 今後の研究として実際にあらわれる道徳行動の地域差検討が必要である.
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