研究概要 |
我々がシェパードトーンの変形を取り上げて実験をはじめたのは昭和57年であり, それ以来5年が経過した. その間昭和61年度から文部省の科学研究費補助金を受けて研究は大幅に進展し, 別記の成果報告書にあげられている論文発表によって一応の収束を見るに至った. それらの論文7編は補助金を受けた期間中の成果であるが, 中でも特に第12回国際音響学会のプロシーディングと・雑誌ミオージクパーセプションに掲載予定の2編が本研究の成果の全体をよく表わしている. これを要約して述べると, オクターブ間隔に部分音を並べたシェパードトーンと同様な効果を, もつと狭い周波数帯域の複合音によって得るために, 三和音(転回形も含む)の平行進行を用いることで達成できた. シェパードトーンの聞こえを多次元尺度分析して示すと二次元の円環状になるが, 三和音で作った擬似シェパードトーンでは被験者によって, 一重の円環になる場合と三重の円環になる場合とがあることが判った. 刺激音のスペクトルを操作して三重の円から一重の円に移行する様子を観測することを考えたが, 条件を単純化して明快にするために二重円から一重円へ移行する刺激を用いることとした. また従来のシェパードトーンで示される高さの循環性はオクターブの循環性であり, オクターブの感覚的類似性に関連するものという見解が多く聞かれるが, その正当性をしらべるために, ここでは一貫して非オクターブ構成の複合音で実験した. その結果, こうした複合音が相い続いて二個提示されると被験者はスペクトルパタンの周期あるいは概周期に着目し, その動きを追うことによって高さの上昇または下降を感じるのだということが明確になった. そして周期, 概周期のどちらを追うべきか紛らわしいときは, 大多数の被験者は, 多数回の判断において統計的にその中間的な態度で判断することが判った. 従って二重円から一重円まで連続的な移行の形が見られた.
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