研究概要 |
人間の眼の動きを記録すると, サッカディック眼球運動(SEMと略記)と一時的な停留(FPと略記)からなる階段上の波形を描く. SEMに続いて, 脳波の中にラムダ反応と呼ばれる電位が現れる. 以前, 筆者らは, この反応がSEMの終了時点, すなわち次のFPの開始時に同期していることを見いだした. 今回の研究目的は, いくつかの認知条件下でのラムダ反応の特性を調べることである. 本研究は三つの実験より成り立っている. 実験に先だってSEMの終了時点で脳波を処理し, ラムダ反応を解析するシステムとコンピュータプログラムを作成した. 実験1では, 視覚刺激のコントラストと空間周波数の違いが, ラムダ反応に及ぼす効果を調べた. 各々の刺激の上を眼で走査しているときの眼球運動と脳波を記録し, ラムダ反応を求めた. その結果, 空間周波数が高く, コントラストが強いほどラムダ反応の振幅が大きくなることが明らかになった. 実験2では, 同一図形の中にカタカナと幾何学図形を混ぜた刺激を見せ, 言語対策作業とパターン探査作業を与えた. 両作業中のラムダ反応の左右差を調べた. その結果, 言語作業中には左側のラムダ反応の振幅が, パターン作業中には右側の振幅が増加することが明らかになった. 実験3では, ノイズの中から特定の数字信号を検出する作業中の信号と非信号とに眼が向けられているときのラムダ反応と, それに続く電位を求めた. 信号と非信号とで比較したところ, 信号を検出したとき, ラムダ反応に続いて事象関連電位のP300に類似した正の電位成分が出現した. これらの結果はラムダ反応が, いわゆる事象関連電位と同じ様な特性を持っていることを表している. そしてラムダ反応は, 眼が自由に動く事態でも利用できるので, 事象関連電位よりも広い応用が期待できる.
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