研究概要 |
認知及び記憶は互いに独立した別個の機能ではなく, 相互に密接な関連をもっている. 図形, 言語のいずれにおいても, どのように所与情報を認知するかということが, 次の保持行動に大きな影響を及ぼす. 本研究は認知と記憶を一連の情報処理過程においてとらえなおし, その相互関連性を総合的に検討したものである. 61年度は非言語情報について検討し, 幾何図形の要素である特徴について考察した. 4特徴3数値より成る図形群を視覚提示し, 注目すべき特徴を指定した実験群とこのような指示のない統制群における保持を比較し, 図形の認知及び保持が特徴のような複数のサブグループによって分析可能であることを示した. 次に特定の特徴に注目させ, 認知を変えることによって生じる保持の変化を測定し, 図形の複雑性もしくは認知及び保持に際しての困難度は特徴の種類数に主として影響されることを示した. これらの結果は, 図形情報が特徴に基づいて複数に区分されて, 認知され保持されることを示す. 62年度は言語情報について検討し, 語彙の認知と保持に及ぼす自然カテゴリとカテゴリ内での名詞の典型度について考察した. 自然カテゴリの特性を検討するため8種のカテゴリに各々属すると考えられる名詞を自由想起させた. 次にこれらのカテゴリの名詞約30種に対してカテゴリ内での典型度を7段階に評定させ, 各カテゴリの大きさ, 名詞の典型度について両者を比較検討した. これらの結果に基づいて, 典型度, 属するカテゴリの種類数, 各名詞とそのカテゴリ名との意味関係を変化させた名詞群のリストを作成し, 再生及び再認法によって保持を測定した. その結果, 提示される名詞が属するカテゴリ数の増大につれて保持が減少することを示し, カテゴリによる語彙の構造化が保持の向上に寄与することを示した.
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