研究概要 |
本報告書では, もっとも発展した産業社会であるアメリカ合衆国の都市移住研究において, アパラチア山間地域及び当該地域からの都市移住者に関する研究が大変多くなされていることにまず着目し, 次の諸点を中心に研究のレヴューを試みた. (1)アパラチア地域は, いったいどのような地域であるかを, 社会的経済的な側面より整理し, 当該地域が構造的な慢性的不況地域であるといわれる実相を明らかにした. (2)アパラチア地域住民は, アイルランドやスコットランド出身の先祖をもち, アメリカ社会でも古い移住者の系譜をもつものが多いが, 彼らの生活様式は, いわゆるミドル・クラスのそれとは対照的であるといわれる論点を社会的文化的側面より把握した. とくに彼らの文化価値体系が, 変動する産業社会のそれに適合しない逆機能的な特徴をもつことから, O・ルイスのいう「貧困の文化」概念が適用される論理的根拠を示した. (3)アパラチア地域から, 1940年代〜60年代にかけて大量の都市移住が何故, 生じたのかを社会階層との関連において明らかにした. とくに60年代は「豊かな社会」における「貧困撲滅戦争」という政治的スローガンが高らかにうたわれたことから, アパラチア地域とその地域住民, そして都市移住は貧困の問題と不可分となった. そこで, 大量の都市移住の経緯を貧困階層と関係付けて整理した. (4)以上の諸点をふまえながら, 都市移住したアパラチア地域住民が, 新しい都市社会においてどのような適応を示すのかを, 1930年代〜80年代の約半世紀にわたる研究より跡付けた. その結果, 60年代以前と以後とを比較すると, 後者において理論化と実践的な社会問題化が鮮明となることを明らかにした. とくに理論化の側面では家族・親族結合による都市適応, 社会問題化の側面ではゲットー居住者の貧困, 社会移動といった諸問題が主要な課題であることを見出した.
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