研究概要 |
本研究は当初の計画では二年間にわたり、初年度に「批判理論の成立と発展」、二年度に「批判理論とコミュニケーション理論の転回」を集中的に研究する予定であった。しかし、一年限りのものとなったため、若干計画を変更し、1.ハバーマスのフランクフルト学派からの離反。2.ハバーマスの「コミュニケーション論的転回」に主題をしぼることを余儀なくされた。 1.ハバーマスがフランクフルト学派の第二世代の代表者であり、実証主義,解釈学,システム論,近代論等、各種の論争の旗手であることはよく知られているが、70年代の後半以降、彼は従来のフランクフルト学派の業績、とりわけアドルノに対する批判を明白にしはじめる。しかしとくにわが国においては、後期アドルノの仕事(『啓蒙の弁証法』,『否定的弁証法』,『美学理論』のトリアーデ)そのものがほとんど知られていないために、それに対する批判の動機と実体が把握されないという欠陥があった。そこで本研究においては、古典的批判理論の伝統と後期アドルノに対するハバーマスの批判を解明することに先ず主眼点が置かれた。 2.次いでその批判の線上に、どういう動機と意図でハバーマスが自己転回を遂げていくかを追跡することが課題となった。この転回は、認識論レベル(真理論),合理性問題(ヴェーバーの合理化批判論にもとづくコミュニケーション的合理性の導出),市民社会ないし市民的近代の再評価、という各種のレベルにわたる重層的なものとして解明され、ハバーマスのめざす新しい合理主義、社会の批判的理論の再建の意義と問題点が明かにされた。今後こういうハバーマスの批判と転回を、それに対するアドルノ側からの反批判とつき合わせてみることによって、本研究は一応の完結をみる予定である。その成果は、本年度中に発表されたもの以外に、近く単行本の形で提示されるはずである。
|