研究概要 |
この研究は「畑作農業地帯における村落構造の時質」を明らかにする農業史分析(第1部)と, 「畑作農業地帯における村落構造の動態」を明らかにする現状分析(第2部)の2つの分析枠組を用いて, 畑作農村の構造と動態を解明しようとしたものである. 第1部の農業史分析においては, 畑作・稲作農業の成立発展過程を通して, 農業形態の違いからみた村落構造の特質と性格の違いを明らかにすることに焦点をおいている. 分析結果によると, 畑作地帯は稲作地帯に比較して, 社会変動的性格や分権的性格が強い. この違いは, 水・土地・人間の三者の関係性の違いによるものと考えられる. 畑作地帯は稲作地帯に比べて三者の分離度が大きく, 未墾地の残存も大きいために, 家族・相続形態や村落構造・政治形態等にも稲作地帯とは異なる性格を与えているように思える. 以上の性格や特質をふまえ, 第2部では, 鹿児島県の典型的な畑作農村の1つ, 溝辺町の村落構造の動態分析を試みている. 同町は昔から水利の便悪く, 小規模散居集落が多い. 村落結合方式は水利より林野結合の性格が強く, その基礎には血縁小同族結合がある. 事例とした村落は, 明治の地租改正前後における開拓移民の居住地であり, 移民達は先住民との養子縁組・株分けによって当集落の居住権を得, 以後, 世代ごとに子世代への農地の分割相続を繰り返すことによって子孫を殖やし, 血縁小同族結合の強い農業集落を形成している. 地縁より血縁, 属地より属人に傾斜した小部落は, 林野結合による重層的な地縁集団に組み込まれ, 最終的には林野共同体に結びつけられている. 農地の分割相続は, 稲作共同体にみられる本家分家, 家の跡とりの観念よりも血縁共同の観念を強化し, 先祖の共同祭祀を通じて血縁共同体としての一体感を維持している. 急激な都市化に伴う共同体の解体は, 林野結合の弱化によって生み出されている.
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