研究概要 |
アメリカ的青年期概念は、ホールの『青年期』(1904)の刊行によってもたらされたという通念があるが、実はその背景に「青年向け人生案内書」とも称すべき書物の夥しい刊行があった。このジャンルを広く解釈すればルネサンス後期の「礼儀作法書」やピカレスク小説にさかのぼることもできる。アメリカにおいてもその種の書物は読まれていたが、独立後の18世紀末から19世紀初頭にかけて青年に人生の指針を与える書物への要求はいっそうたかまった。これが第一の波とすると第二の波は南北戦争後から20世紀初頭にかけてあらわれ、これが『青年期』刊行の直接の背景をなす。第一の波と第二の波における青年にかかわる書物の特徴を対比するとおよそ次のような変化がみられる。1著者の主体が牧師から医師、社会改良家へと移行ないし拡大した。但し回心をはじめとする宗教的テーマは根づよく残る。2イギリス,フランスの書物の輸入や翻訳が多かったのに対してアメリカ人自身が書いたものが目立って多くなった。3読者対象が青年自身から青年たちの親や指導者へと重心を移した。著者の呼びかける相手が青年自身からその保護者たちに移ったのである。本研究の中心主題である「自立」と「反早熟」の葛藤という観点からは1と3が重要であるが、葛藤と1と3の関連は分析できなかった。ただ単純化していうと「自立」とは経済的自立を、「反早熟」はとくに性に関することを意味していることが分った。青年は純真さを残したまま社会性豊かな市民となるという葛藤しあう性格を形成することを求められたのである。今後は次の視点を重視する必要がある。1予想よりもっとさかのぼった時代の背景、2家出,親ばなれなど家族内人間関係の変化、8青年にとってのモデルないし指導者の問題、4仲間関係,先輩後輩関係の変化、5男と女の関係,男の青年期と女の青年期との区別。
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