研究概要 |
現代は, しつけ喪失の時代であるとか, しつけ無き時代であると言われている. だが, このしつけ実態に関する調査は近年増加しているものの, その多くは深刻化しつつある状況を現象的に記述するにとどまっている. われわれは, これまでのわが国のしつけ研究, アメリカ合衆国などにおける社会化研究, および会話分析などのレヴューを行い, そのなかで従来の機能主義的社会化研究を批判して, 相互作用論的, 解釈論的しつけ概念にもとづくアプローチを採用した. 初年度は, 幼稚園における参与観察, 教師・母親面談のテープ分析を素材として, 教師と母親のしつけ意識を検討した. また, NHKラジオの電話教育相談をテープ録音し, その分析を通して母親のしつけ不安を考察した. 次年度は, これに加えて, 京都市および府下の4幼稚園の協力を得て, 母親に対する質問紙調査を行い, 母親のしつけ意識を社会階層, 職業, 家庭的背景との関連において分析した. また同時にS幼稚園においては, ビデオ・カメラを設置し, 記録と参与観察にもとづいて, 教師と幼児との相互作用を考察した. 以上の諸研究から得られた知見を要約すれば, つぎのとおりである. 1)今回では, 家庭, 幼稚園のいずれにおいても「児童中心主義」的なしつけが行われているが, これが結果として, 幼児の成長発達を「拘束」する統制的イデオロギーとして作用している. 2)教師, カウンセラーの許容的しつけ原理が, かえって母親を不安におとし入れているが, 母親は, その不安から脱却する方法を与えられていない. その結果, 現実問題としてアンヴィヴァラントなしつけを生んでいる. 3)しつけをめぐる親の満足度は, 職業階層の上位において下位よりも高くなる傾向があるが, それ以上にしつけ行為を左右する要因としては, 幼児の家族収地位が大きく作用している.
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