研究概要 |
精神年齢3-5歳のダウン症児の音声を採取し, 健常児の音声と比較検討してダウン症児の構音特徴を抽出した. ダウン症児の構音特徴として得られた知見は以下の通りである. (1)単音節レベルの構音は比較的明瞭で発語明瞭度は高い. (2)音節が増すと共に構音のくずれが顕著になる. 3音節を過ぎると極端にくずれの傾向が増し音節自体が曖昧になってしまい発語明瞭度が低下する. (3)語内位置で発語明瞭度をみると「語尾音」が最も高く次いで「語中音」, 「語頭音」が最も低くなっている. (4)音声全体のパタンとしての特徴を比較的良く捉え表現しようとする. (5)発語にともなって身振り表現をすることが多く, 音声言語の補助的な役割をしている. また, ダウン症児の音声の特徴からタイプ分けをすると・早口タイプ・省略タイプ・置換タイプ・歪タイプ・音節不一致タイプの5タイプになった. これらのタイプから典型的なダウン症児を抽出し調査用の音声サンプルを作成した. 聞き取り調査はダウン症児の養育者群, 教育者群, ダウン症児と余り接触の無い一般人群の3群について行い, 了解度を比較した. その結果ダウン症児と最も接触密度の濃い養育者群が最も了解度が高く, 次いで教育者群, 一般人群の順になった. また一般人群に意味内容や形態を表すヒントまたは「語頭音」をヒントとして与えるとその了解度は飛躍的に向上した. こうした知見を基にしてダウン症児の構音指導のプログラムを実行し指導効果を測定した. その結果, 聞き手の了解度が増し, 伝達効率は格段に向上した. このように聞き手の了解度に視点をおきダウン症児の言語特性を活用し, その特性にあった指導方法を採用することに関して多くの示唆が得られた.
|