研究概要 |
本研究の目的は, 精神発達遅滞児が, 自己を取り巻く周囲の大人や同年齢児との関係の中で, どの様な手段を用いてコミュニケーションを得ようとしているかを知り, どの様な治療教育が望ましいかを明らかにすることにある. 今回対象とした精神発達遅滞児は, その大部分がまったくく言葉を持たない, あるいは持っていても単語レベルであったり, 逆に話ことばを持っていても意味理解が著しく障害されている児童であった. これらの児童は幼児期から言語発達遅滞児と診断され種々の訓練や療育を受けてきたが, その効果がないまま就学した児童でもある. こういった児童に対して, 多くの場合に, 話ことばのみに焦点が当てられるが, 児童を詳しく観察し, 長期の追跡を行ってみると, 言語以外にも運動や認知, あるいは学習面で多くの種々雑多な障害を合わせ持っていることが明らかとなる. 本研究では, コミニュニケーションの意味を広く捉え, むしろ言語機能以外で, 子ども達のコミュニケーションを支えているものはなにかということに焦点をあてた. その第一として, 健常乳幼児と精神遅滞児を種々の状況の中で観察し, 子ども達が周囲の大人や同年齢児に対して働きかけたり, 自己の要求を充足させていくコミュニケーション手段としては, 身振り, うなずき(肯定), いやいや(否定, 拒否), 指さし, クレーン現象, 物の提示, 接近, 表情, 視線等があることを明らかにした. 第二は, これらの基礎資料を基にして, より年長の重篤な言語障害を示す精神発達遅滞児での, 言語以外の運動機能や認知, 学習の発達の様相を, 種々の神経心理検査を実施することによって明らかにし, これらの言語外症状と言語の障害がどの様に関連しているかを明らかにした.
|