研究概要 |
教育内容に関する社会学的研究の一つとしての「日本大衆文化における親子像」の研究は、今年度は、説経・浄瑠璃の作品分析を集中的に行なった。これは、日本大衆芸能の親子像の源流を深ることにもなり、また、表象としての親子像のその後の歴史的変遷を知ることにもなる、一つの基礎的な作業である。 このため、資料として『説経正本集』1-3巻、『古浄瑠璃正本集』1-10巻、『近松全集』1-12巻、『金平浄瑠璃全集』1-3巻、『土佐浄瑠璃全集』1-3巻、『紀海音全集』1-7巻のすべての作品(計547作品)について ストーリーの概要をカード化し、とくにその親子関係について分析した。 この結果、次のような、親子関係の諸タイプを析出することができた。 (説経)1 親を救う子,2 子を捨てる親,3 子から逃げる親。(古浄瑠璃)1 自覚する親,2 自覚する子ども。(金平浄瑠璃)1 世代交代を主張する子,2 体制内批判をする子。(近松浄瑠璃)では、親子の問題を、同心円的状況と多重円的状況に分け、前者は、1 お家騒動もの,2 継父母もの,3 身替りもの,後者は、1 板ばさみもの,2 心中もの,3 不条理もの,に分けて考察した。 とくに、近松作品における「親子関係」は、これ以後(または同時代)の紀海音らの作品や歌舞伎に大きな影響を与えた原型とみられる。当時の近世社会における、多種なる準拠集団の自我群の反映による自我葛藤と、それを超克せんとする調和への希求が、親子像に表象されている、と解される。「親殺し」「子殺し」の日本的元型の一端が、ここにみられる。
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