研究概要 |
留学生群(178人)・非留学生群(176人)の自尊感情及び自我同一性を, Janis,I.L.の自尊感情測定尺度(木適切の感情領域を測定)及び遠藤らの自我同一性測定尺度の一部(精神社会性の発達段階I〜Vを測定)を用いて, 一年間の間隔をおいて前後2回測定した. 留学生群の自尊感情得点と自我同一性のI〜IVの各得点が, 非留学生群のそれらより有意に高かった. これは, 留学生の方が, 自分は選抜されたという意識を持ち, しかも渡航を目前に控えていたことによるのであろう. 一方, 上記の得点に関する有意な性差は皆無であった. 被調査者を15歳から18歳までの年齢別の群に分け, 各群間の自尊感情得点と自我同一性得点を比較した結果, 18歳群の各得点が17歳群のそれより有意に高いことを除き, 各群間に殆ど有意差はなかった. しかし, 留学生群の各年齢群間における有意差検定の結果, 留学後, 15歳群は16歳群・17歳群に比べ自我同一性のIとIVの得点が有意に高かった. これは青年期における留学の自我同一性発達に対する結果は年齢が低いほど大きいことを思わせる. また一方非留学生群の各年齢群間の有意差は皆無であった. 帰国直後の留学生全員の各得点は渡航前のそれに比べ, 有意に高かった. しかし, 男子群は段階Vの得点が留学後に上昇する傾向を示しただけで, 他の得点は変化しなかった. 一方, 女子群は全得点が有意に上昇した. 男子は留学しても自尊感情と自我同一性の発達に影響を殆ど受けないが, 女子は留学によって両者の発達が促進されると言えよう. 自我同一性地位面接を行った留学生群の被調査者の内, 早期完了型の者は, 帰国後, 自尊感情得点も自我同一性得点も殆ど変化しない. モラトリアム型の者は自尊感情得点も自我同一性得点も増大する. 特に, 自尊感情と自我同一性の段階IVの得点の増大が著しい. また, 自我同一性地位に拘らず, 被調査者は留学によって将来の展望を一層明らかなものにしている.
|