1.対比資料の補充 基準資料としては当初の計画どおり、樊綽(唐)の『蛮書』(10巻)を採択することに問題はなかったが、それを補完する対比資料については綿密な史料考証を試みたところ、当初上位にランクされた楊慎(明)の『南詔野史』(2巻)その他には、それぞれ民族資料として不備・欠陥があることが判明した。そこで別途関連資料を渉猟した結果、『蛮書』に関する校勘文献としては、正史『新唐書』「南蛮伝」、および宋代類書の白眉『太平御覧』「南蛮」の記述内容が当研究課題にとって、むしろ資料的価値が高いことがわかった。そこでこの2文献を『蛮書』の第一義的対比資料として、追加することにした。 2.『新唐書』によるシミュレーションの効果 上記追加2文献のうち、『新唐書』については昭和60年度の科学研究費「一般研究〔C〕」(課題番号:60510155)によって、すでに電算機処理が完了しているので、『蛮書』自体のデータ作成に先立って、若干の習俗語彙に関して実験的な検索シミュレーションを試みた。その結果、たとえば『蛮書』巻8「蛮夷風俗」中に見える「婦人一切不施粉黛」という語句と、それに続く「貴者以綾錦為裙襦」という語句との間には、元来「以蘇沢髪」という語句が介在したであろうことが、『新唐書』の端末検索によってほぼ確認できた。したがって『蛮書』全文の入力が完了した暁には、かねて指摘されている現行本の欠落箇所の補填や錯簡の校訂が、格段に容易かつ効率的に行なえるようになろう。 3.今後の研究の展開 以上の研究成果を踏まえて、次年度以降も新構想のもとに漢籍資料のデータ化を進めていく予定である。
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