研究概要 |
二年間にわたって, 東大史料編纂所・内閣文庫・国立史料館をはじめ, 各地の図書館・研究施設を調査し, 豊臣秀吉・秀次や豊臣一族の発給文書を網羅的に収集した. また, 刊行物・編纂物等からも同様の作業を行った. これを分類・整理し, 無年号文書の年代比定を行い, 本年6月を目標に『豊臣秀吉文書目録』を刊行する予定である. これまで, 豊臣秀吉文書について纏まったものは殆んど無く, 様式論・機能論をふまえた研究は十分に行われていなかった. その原因は, 研究の土台となるべきものが確定されていない点にあるといえよう. 近い将来, 『文書集』を編纂するためにも不可欠の作業であり, 重複・脱漏等を補訂しつつ, 完成を期したいと思っている. 豊臣秀吉発給文書についての古文書学的検討により, 幾つかの新知見を加えることができた. 関白政権としての特質を示す公家儀礼の確立, 朱印状の諸類型, 朱印押捺位置の変化, 家臣発給文書への捺印による権威づけ, 同一文書が複数存在する状況, いわゆる「御内書」様式と自敬表現, 知行宛行状の形態の変遷, 法令発布形態の相違, 「自称」の変化, 関白発給文書としての特質, 外交文書の様式上の特質, 「改元」関係史料, 「公帖」にみられる室町将軍発給文書の継承の問題, 秀次発給文書の性格, 連署状の性格, 記録類に収められた文書の性格, 「後文書」の諸類型, 等々である. このうち, 未発表のものについては, 近く吉川弘文館から刊行する予定の論文集で発表することになろう. 一点ずつの年代比定を行っているなかで, 幾つかについては従来の比定の誤りをただすことができた. また, 関連史料を一括して検討するなかで, 様式上その他で疑問のあるものを摘出したり, これまで別個のものとみなされていたものが, 相互補完の関係にあることなどを知ることができた. かかる基礎作業は今後とも続ける必要がある.
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