研究概要 |
本研究においては, 黎朝の基本法典である『国朝刑律』の諸条文の校合・吟味を進めるとともに, 新たに入手し得た諸資料を活用し, それらを整理し黎法の性格と特徴をかなり具体的に孝究することができた. 1.『国朝刑律』所収の諸条文の正確な解読に努め, その成果の一部を87年刊行の抽著に反映した. 2.『国朝刑律』の解読過程の一産物として賭博律をめぐる専論を発表し, ベトナム前近代において盛行した賭博の種別・実態を明らかにしたほか, この賭博行為に対する黎朝の法的対応とそれをめぐる法意識を論及した. この論稿は, 国家と民衆双方の法意識を探究するための一方法として取り上げたものである. 3.黎法に関しては, 訴訟制度をはじめ, 法的諸機構の問題がまだほとんど手をつけられていない. このため, 監獄に関する一文を草し, 監獄の実態・機構並びに管理運営にかかわる諸問題を多角的に追究してみた. 4.黎法の研究を進展させるためには, 文献資料の調査も欠かせない. ここでは, 『故黎律例』と同書に収められた洪徳申明各条例を検討し, これらが黎法研究のために充分活用し得る有益な資料であることを確認した. 5.『国朝刑律』研究の一環として, その猛獣規定を中国法と対立しつつ分析し, 有史以来, ベトナム人に対し虎が申告な影響を与えたことを, 政治・社会・宗教・法の各側面から検討した. この研究で取り上げた諸課題は, いずれも未開拓の分野に属するものであるが, なお黎法の全体像を解明するために研鑽を積んでいかなければならない. 今後は, この成果を踏まえ, 黎代の訴訟・裁判制度の全体系を究明するための新たな研究課題を設定し, この度の化学研究費補助筋の交付に応えたい, と思う.
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