研究概要 |
西ドイツ社会史学派を中心とした最近の農民戦争研究の中で、とくに注目されるのは、ブリックレとその学派による「農村の宗教改革」あるいは「共同体的宗教改革」の問題提起である。こうして、従来、共同体運動として把握された農民戦争は、さらに思想史的な側面からも掘り下げられており、またスクリブナー等の研究を通して、民衆宗教としての宗教改革の理解も深まりつつある。他方、従来の研究にみられた農民戦争の経済的社会的背景やその政治綱領の分析を進めて、近世史全般にわたる農民運動の性格を追求する、シュルツェの研究等も注目される。本年度の研究は、こうした研究動向を視野に入れ、主として以下の成果をあげた。 1.P.Blickle,Die Revolution von 1525,2.Aufl.,1981の邦訳を田中真造氏と共訳で完成した。本書は、西南ドイツを中心に、農民戦争の共同体的基盤を解明し、その経済的,社会的,政治的,思想的構造を分析した書物で、最近の農民戦争研究の中で最大の成果である。なお、かなり詳細な訳者解説を付し、叙上の学説にも言及した。 2.寺尾誠氏を中心に進められている、G.Franz,Der deutsche Bauernkrieg,11.Aufl.,1977の邦訳に参加し、上ドイツの部分を担当した。 3.12箇条の成立をめぐる最近の研究動向を整理し、とくに民衆宗教や共同体的宗教改革の観点から、史料的にこれを検討している。1987年度に論文として公刊の予定である。 4.さらに今後の展望として、「宗教改革と農民戦争」に関する学説整理を研究ノートとして公刊する。また、上シュヴァーベンを中心に、土地台帳,租税台帳,農民抗議書等の分析を進めており、農民戦争の共同体的基盤,農民層分解をめぐるその多様性等が、さらに実証的に明らかとなるであろう。
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