源氏物語別本諸本の基礎的な研究として、分量が膨大なだけに、まず今年度はいくつかの伝本の調査と、具体的に用いられている作品の本文の分析に努めた。以下、その研究実績と経過の一部について報告しておく。 1)文化庁蔵保坂潤治旧蔵本の調査 浮舟巻を欠く53帖で、桐壷巻から絵合巻までの17帖は室町期の補写、残りの36帖は鎌倉期の古写本である。初めの17帖は桐壷巻が定法寺公助、帚木巻が中御門宣秀筆、ほかに飛鳥井雅康・三条西実隆などの伝称筆者名が付される。古写の36帖には、薄雲・初音・椎本・宿木・手習・夢浮橋の各巻を慈鎮とし、藤袴・竹河を冷泉為相筆とするだけで、それ以外には極札は付されていない。また、この36帖のうち、松風と蛍が河内本で、あとは別本である。これほど別本がまとまって伝来している例はあまりないので、本文研究において貴重な存在と言えよう。 2)定家所持本の検討 青表紙本が校訂される以前、定家はどのような源氏物語を所持していたのか、その実態を知るため『物語二百番歌合』の本文の性格を考察することにした。それによると、和歌は青表紙本系統、詞書は明らかに別本の本文によってダイジェスト化されていると知られる。初めは別本で作成し、青表紙本の校訂とともに、和歌だけは改訂したと思われる。 3耕雲本の調査 天理図書館蔵薄雲・朝顔・東洋大学図書館蔵玉鬘巻を調査し、その本文の性格・書き入れ注記について考察した。 4陽明文庫本(別本)のいくつかの巻をパーソナルコンピューター(PC9801VM)に入力し、文節ごとに区切って、青表紙本(大島本)との比較を進めている。
|