研究概要 |
18世紀以降現代までのシェイクスピア批評を、必ずしも年代順にとらわれずに、方法論的見地から通観し、それによって従来の歴史主義的なシェイクスピア批評よりも、論理性に富み、肌理の細かな批評的パースペクティヴを確立すると共に、今後のシェイクスピア批評のあり方ないしは可能性を探る足がかりを築くのが本研究の目的である。そのために今後数年にわたってシエイクスピアの全悲劇を対象に、今日まで行なわれてきたさまざまな批評をその方法(eg,心理主義的リアリズム,歴史主義,構造分析,言語分析,精神分析,現象学など)をもとに色合けし、共対的視点ようする一種の見取り図を作成することを意図している。今年度はその準備として、一方において各方法論の基礎原理を明確に図式化すると共に、他方において各批評家の理論と実践の中に何らかの根幹的特徴を把握するという作業に従事してきた。その結果、例えば従来性格批評とか主観主義批評と呼びならわされてきたものの中に、のちの精神分析や現象学的批評につながる要素が見出されたり、今世紀前半の言語分析批評に構造主義と内的関わりを持つと思われる側面が発見されたりするという收穫があった。逆に、ポスト・モダンの範畴に入れられる今日的批評や「新 歴史主義を標榜する方法原理の実践的適用の例に、案外過去の批評に通ずるものが多いことが判明したのも、有益であった。今後こうした個々のケースの知見を綜合して、シェイクスピア悲劇批評の全体的パースペクテイヴの確立を目指したい。
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