本研究においては、医療記録への本人閲覧を積極的に法認しつつあるアメリカ諸州の制定法、判例法および各種団体の動向に焦点をあてた。そのための前提作業として、アメリカにおける患者記録の意味、種類、作成保存目的、記載内容等について、全米病院協会のマニュアルの指示するところを明らかにした。 ついで、患者の本人閲覧を法認するに至る社会的・法的背景につき検討し、全米病院協会や全米医師会が、なぜ、かつては本人閲覧に反対し、その後なぜ賛成論にまわったのか、を明らかにした。 さらに、これまでの判例法または判定法が、本人閲覧権につき、どこまで対処してきたか(または対処しうるか)を論じ、近時の制定法の、この分野における顕著な展開について触れた。特に、キャリフォーニア州法、ワシントンD.C、の法律について、詳細に紹介した。 現在、アメリカにおいては、過半数の州が、患者の閲覧権を正式に法認しているが、残された問題は、患者の訂正権がどこまで及びうるか、閲覧を認めない医療記録の範囲とその理由を、どこに求めるか、であることが判明した。今後は、わが国の医療記録の作成実態、医療慣行と対比しながら、患者の閲覧・訂正権の限界を論じてみたい。
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