研究概要 |
米国務省の「海の境界」」シリーズの1980以降刊行分の入手は目下不首尾に終わっているが、米・加メイン湾事件の準備書面にこれらが援用されており、準備書面一式の複写を入手したので、当面の必要は満たした。発注した多くの単行書の到着が遅れたので、今年度の研究はメイン湾事件準備書面の分析に集中した。準備書面は、両当事国が自国の利益擁護のために総力を挙げて用意するので、一部に牽強付会の臭味のある論理は見られるが、その付属資料は粉飾のない資料を収集している。 従来の国内の判例研究やそれを踏まえた一般研究は、ごく一部のものを除いて、準備書面や口頭審理の記録を参照していないので、研究方法の改善の観点からもこれらは必要である。プリーディングズを読んで初めて判決及び個別意見のニュアンスがよく理解される(R.Y.ジェニングズ)のは事実で、メイン湾事件において米国が主張したジグザグ境界線の法理は、スェーデン・ノルウェー間のグリスバダルナ事件仲裁判決の法理のうちの、「沿岸線の一般的方向に垂直の線」を以て境界線とするという点と、これによって二つの漁場を両国に分けた事実を「将来の紛争の回避」と理解した点に依拠したことが判る。しかし同事件の他の関連事情の含意を無視したことが米国の敗因の一つになったかと思われる。 北海,英仏,チュニジア・リビア,リビア・マルタの各事件では大陸棚の境界画定がなされ又はその指針が示されたのに対し、メイン湾,ギニア・ギニアビサウ両事件では単一の境界線が引かれ、とくに前者では大陸棚と漁業水域両制度の共通要因に着目して単一の境界線が引かれたので、今後の、大陸棚と排他的経済水域に共通の境界線を画定する法理の展開のために、有力な先例となると思われる。
|