研究概要 |
本研究期間中に上記条約のみならずその姉妹条約である「国際動産売買における時効に関する条約」の発効も確定したので, その背後の国境を越えた連携作業及び国連事務局によるその調整作業の動きを鮮明に追うことができたが, 条約内容に合理性があるかぎり, その推進には論理よりもムード創出へ向けての国際的なゲームとタイミングが決定的重要性をもつことが明白となった. また, 条約内容の検討と並行して行った日米の契約法の基礎についての比較法的検討からも, これまで強調されてきた両法系におけるアプローチの差が表面的なものにすぎず, 体制の問題としての意思自治と秩序の維持に貢献する信頼の減速のドグマ的発現形態の差にすぎないことが論証でき, ドグマの自己拡大が法の究極目標を念頭に置いた議論から遠ざかる傾向を示す危険性とともに法的概念を止揚し原点を同条約が世界的に受け入れられる内容基盤の合理性も確認されたが, 条約内容の合理性の説得にあたっては, 各国で展開されてきた難解な法理論のベールの下にきわめて常識的で実質的に同じである共通の原点が存在していたことの強調が, 条約への親近感を抱かせ国境を越えた広範な採択への努力に結実することも明らかとなった. 莫大な費用と長年月を要するこの種の条約は, 条約至上主義が貫徹できなくなっている現在の世界で今後続出することは考えられないが, 他方では, 国際的取引関係におけるコンピュータ利用の発達は, 取引への法的対応における国際的な共同歩調の必要性をさらに高めている. 50年に及んだ法統一作業の金字塔としての1980年条約とその発効に到るプロセス及びその周辺の動きの分析は, 早急に法の統一と調和が求められる分野で活用が予測されるモデル法やリーガル・ガイド作成等に対しても, 今後のテーマ選定や作業方法, わが国の条約加入実現等を含む国際的協力態勢の推進方法等に貴重な示唆とlex mercatoria出現への希望を与える.
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