研究概要 |
今日のわが国における刑法において、その最大の特徴は「刑罰法規の氾濫」または「刑罰インフレ」と呼ばれる現象にある。このような現象は、行政刑罰法規の数が非常に増大し、刑罰法規の大部分を占めるに至っていることに帰因する。しかも、行政刑法の領域においては、その特殊性を根拠として、近代刑法の基本原理である罪刑法定主義,法益侵害主義,責任主義に対する多くの例外が認められ、むしろ、原則と例外との逆転現象さえみられるといってもよい。たとえば、刑罰法規の不明確性,形式犯処罰の拡大,明文なく過失犯が広く処罰されていること、などがそれである。そして、このように刑罰法規が氾濫しているという現実のもとで、これらの法規に違反する行為(=犯罪)もおのずから無数に存在することにもなり、これらを処理するための刑事手続が必要となってくる。その結果、今日の刑事司法においては、通常の手続によるのではなく、略式手続等簡易に処理する必要が増大しており、この傾向はますます強まってきている。この点に関連して、今日の刑事司法において、司法警察レベルで事件を処理する必要性が増大し、おのずから警察の裁量が拡がり、警察権限の強化をも招来している。このような今日の刑事司法全般にかかわる根本問題をどのように解決すべきか、が現代刑事法学の最大の課題である、といえよう。この解決の方法としていくつかの道がありうるが、その最も有効かつ適切なものは、今日の西ドイツが採用している行政犯の非犯罪化の道ではないか、と私は考えている。すなわち、西ドイツの「秩序違反法」を参考にして、独自の行政制裁法を制定すべきであろう。このような試みによって、今日の刑事法学上の多くの難問がいかに解決しうるかを具体的に提言する。
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