研究概要 |
2年間の研究成果の第1は, 生命倫理法学(リーガル・バイオエシックス)という新しい学問分野の開拓を提唱し, その方法論と基本原則を考察したことである. バイオエシックスは極めて学際的・総合的な分野であるが, 本来は倫理学に属し倫理学の方法と体系に依存するものであるのに対して, 生命倫理法学は生命倫理問題に対して法学的アプローチを行うものである. 生命倫理法学の方法論や体系はまだ確率されていないが, それは法学的思考の特徴を示すものである. すなわち, 法は, 社会生活の保持発展という観点から, 利害の衝突を調和的に解決するために, 利益衡量を行い明確な基準を確立し, これを法的手続を通して法的基準として承認することを目指すものである. とくに刑法は最後の手段として必要不可欠な場合にのみ用いられるが例えば人間遺伝子や胎児への不当な干渉を防止することなどのために刑事立法を必要とする場合も存在する. 生命倫理法学においては, 人間の尊厳の思想を堅持することと比較法的研究がとくに重要である. 研究成果の第2は, 各論的研究を行ったことである. 人間の生命の発生から死滅にいたる全過程において人工的操作可能性から生じる多くの問題がある. それらの中で, 人工・体外授精における子の出自を知る権利, 胎児障害による殺人・過失致死罪の成立, 全脳死説と全脳梗塞説の採用と立法の必要性, 日本の臓器移植法の不当性(故人の自己決定権の不尊重)などについて論じた. 以上の研究成果は, 研究成果報告書に収録されている. 今後も生命倫理法学の確立のために研究をつづけるつもりである.
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