研究概要 |
イタリア議会の危機は近年深刻さを増し, 政治指導・立法活動・行政コントロール等多方面に渡っている. その原因として次の三点が挙げられる. 第一に, 議会に国政の中心機関としての実質的機能を保障するための「制度化」が不十分であったこと. 第二に, 政治文化の分極性を反映して, 政治階級にイデオロギー・社会的出自・教育・専門職化・政党支配の程度において, かなりの異質性があること. 第三に, これらの構造的欠陥に70年代以降の経済的・政治的・社会的危機が加わり, 議会の機能不全を促進したのである. すなわち, イタリア議会は他の西欧諸国と比較しても非常に膨大な数の立法数を毎年生産しているが, それらの法律の大部分が利害関係者が限られた部分的法律であり, しかもその約75%は非公開の常任委員会立法であり, その手続と審議に長期間を要する点で--対等の二院制ゆえにこれが二度繰り返される--非能率と機能不全を示している. 他方, 「多中心的-連合的高議会化」(DC, PSI)と「統一的-中央集権的・低議会化」(PCI)に二分できる政治階級の構造的異質性は, このような制度化の貧弱さを悪化させる方向に作用した. つまり, 政権政党が採用した政治操作手段は「政党クリエンテリズモ」という, 議会権限の十全な発展を回避する形での利益分配方式と, 「暫定措置令」によるその場しのぎ的対応であった. こうした危機の展開の中で, 「第二共和制」への発展とさえも言われるボッツ委員会報告が提出され, 議会と国家諸制度の根本的改革が論議されている. 同時に, 議会改革の取り組みと並行して, 国民投票や住民評議会等の直接民主主義の制度的発展は, 「新しい民主主義」の模索の現われである. 今後は, この議会と政治階級との研究の上に立って, 政府の具体的な政策決定と実行過程の分析を企画している. それによって, 議会制のダイナミズムと実態が一層明らかになるであろう.
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