本研究のねらいは、スコットランド啓蒙思想の特質の解明に努力するとともに、それが当時の農民にどのような影響をもったかをあきらかにすることである。 1.スコットランド啓蒙思想研究は、シァーやロバーソンの研究など次第に細かくなるとともに、取りあげられる人物も多彩になって、研究は着実に前進している。当然それらの研究のフォローに努めたが、そのなかで、現在国際的なスコットランド啓蒙思想研究に大きな影響を与えているアメリカのポコックの方法の限界に気づいた。ポコックのシヴィック・ヒューマニズム・パラダイムは、思考の枠組の把握には一定の有効性をもったが、時代の問題とのかかわりで思想の形成・発展を考える視点がぼやけてしまうのである。そうした方法的反省をふまえて私自身の研究をすすめつつある。なおポコックの影響下にある研究者の論文集『富と徳』は、スコットランド啓蒙思想研究の最高水準を示すものであるが、現在邦訳が進行中(未来社から刊行予定)であり、私もその1部を分担している。 2.以上のように、スコットランド啓蒙思想自体の研究はさかんであるのにたいして、民衆への影響となるとまだほとんど手がつけられていない。民衆運動自体については、部分的にミークルやボーレイの研究があるが、スコットランド啓蒙思想とのかかわりは意識されていない。そこでまず、史料の入手・整理から始めなければならなかったが、本年度は、ジョン・ミラーとその弟子であるトマス・ミュア及びジョン・クレイグの史料の入手・整理を行った。とくに本研究費でぼう大なミラーの講義ノートのマイクロ・ゼロックス・コピーをとることができたのは幸いで、目下それを読みつつある。また史料検討の過程でグラーズゴウのミラーにたいしてエディンバラのワイルドとしう新しい問題がでてきたが、ワイルドにかんしては京都大学の大型コレクションを利用できた。論文にするにはまだ時間がかかりそうである。
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