研究概要 |
第二次石油危機以前のわが国企業金融は、間接金融(銀行を通した産業資金供給)優位という点で特徴づけられる。本研究ではその経済的背景を分析し、(1)税制上負債が有利であったこと,(2)制度的制約が多く社債市場が機能し得なかったこと,(3)株式市場も同様であったこと,(4)企業にとって銀行借入金は、事実上長期であり(転がし契約による)社債の役割をしたこと,(5)さらに、銀行借入金は企業のビジネスリスクを事実上負担し、同時に株式(自己資本)の役割も果たしたこと,等の要因が考えられることを示した。その前堤となっているのは、(6)銀行借入は企業・銀行間の相対(あいたい)取引によってなされるため、情報の非対称性が小さく、その非対称性から生ずるエージェンシーコストがきわめて小さかったこと,(7)有担原則がとられていたこと,(8)金融機関,一般事業法人(いわゆる関連会社)および個人の三グループに株主が分割され、株主の支配力が弱く、経営者支配が確立していたこと,等々であることも明らかにされた。(7)の点は、欧米では負債といえば無担保社債であることと対比すると、その特徴が明白である。 以上わが国のかつての企業金融を説明する命題が導かれたが、これはあくまでも理論的仮説であり、その実証テストが今後の重要な課題である。
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