研究概要 |
1.20世紀におけるドイツの学者の保険学研究は、ドイツの保険学史の中で最も盛んであったばかりでなく、世界の保険学の指導的役割を果してきた。日本の保険学、特に損害保険の研究は、ドイツの諸学者の研究を紹介ないし祖述であったといっても過言ではないが、一方、ドイツの研究に触発・刺激されて日本の保険学の基礎が築かれ、発展したといってもよい。その中心となった学者として、第2次大戦まではマーネス,エーレンベルク,キッシュ,リッター,ハーゲン,ブルックなどを挙げることができるが、第2次大戦後はこれら20世紀前半のドイツ学界の成果を集大成して、ヨーロッパの学界に君臨したメラーの研究業績を特筆しなければならない。 2.61年度において研究者は、その保険についての定義が僅かの修正だけで現在のドイツ保険学会の統一的定義として採用されているマーネスの保険入用説、保険成立の基礎をなしているのは多数の被保険者が一つの危険団体を構成していることにあるとするブルックの危険団体説、保険契約の対象である被保険利益の本質は人と物との関係であるとするエーレンベルクの関係説、被保険利益は関係ではなくて財産財とみるキッシュの財産財説など、わが国にも紹介された主要な学説を原典によって再検討した。そして現在の日本の状況に照らして興味ある学説として保険を財産形成の手段とみるシュミット・リンプラーの独特の学説や私保険・社会保険を「生存への備え」という全体の組織の中で理解しようとするワイドナーの特色ある学説に気がついた。わが国の積立型損害保険商品との関係で更に検討する必要がある。 3.第2次大戦後から今日までドイツで支配的な理論はメラーのそれである。特にその積極財産保険・消極財産保険の分類に示された利益概念は、現在わが国で開発を検討されてている家財ないし工場の新価保険の適法性如何に関してもその判断基準を提供している。
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