研究概要 |
この研究計画では, 超対称性弦模型にもとづいて素粒子の統一理論を作ろうとする際に問題となる諸点を少しずつ解き明かすことに努力した. まず, 重力場のもとでの場の量子論において最も顕著な現象である, いわゆるホーキング輻射を, 弦理論について検討した. ブラック・ホールのような強い重力場が存在する場合には, その重力場の中から粒子の生成がおこり, そのスペクトルは熱平衡分布をしているように見える. この「ホーキング温度」は重力場の強さに比例している. 一方, 弦理論では熱平衡状態を或る温度以上にしようとしても決して越えることのできない限界温度(ハゲドロン温度)がある. 具体的に弦模型を強い一様重力場中において計算してみると, 「ホーキング温度」は「ハゲドロン温度」の1/лまでしか上げられず, 可能な重力場の強さには上限があることがわかった. さらに, 低エネルギーでの有効相互作用を検討するために, 超弦理論において量子効果を具体的に1ループまで計算した. その結果, 弦のスロープ・パラメターα′についての3次の補正項として1ループの補正が現れることがわかった. このように量子効果によって弦の運動方程式に補正があることは弦理論の原理である共形不変性についての考え方に変更を迫るものである. 実際に, 曲がった時空での弦の運動は非線型シグマ模型としてとらえることができる. 弦のループの量子効果はトーラスなどのより複雑なトポロジーを持った世界面で表される. 一般のリーマン面上の共形場の理論については, 最近, 演算子形式の定式化が開発されている. この定式化を用いて, 一般のリーマン面上の非線型シグマ模型を論じ, 弦のループ効果をとり入れた「一般化された共形不変性」を定式化することに成功した. また, モジュラー形式の理論を活用して, 混成的弦理論の1ループ補正から来る有効相互作用を具体的にとり出すことにも成功した.
|