研究概要 |
光電子のスピン偏極度を解析するため, 小型で簡便な低エネルギーMott型スピン偏極度検出器を製作し, その特性を調べた. 入射電子のエネルギーを50eVから200eVまで, 加速電圧を15kVから40kVまで変えて, 120°方向で散乱特性および装置による散乱非対称度を測定した. この検出器の散乱強度は入射エネルギーと共に増加し, 加速電圧が減少するにつれて増加する. これは低エネルギーMott型検出器が, 100kV程度の高エネルギー電子に対して動作する型の検出器より有利であることを示すものである. 40kV以下の加速電圧で, ターゲットをAl, Cu, Auに換えると, 散乱強度はこの順番に大きくなり, 原子番号の大きいAuがターゲット物質として適当であることを確認した. Auをターゲットとしたとき, この検出器の散乱効率は10^<-4>であった. さらに装置による散乱の非対称度は±3%以下であり, 製作した検出器は十分実用に耐えるものであることがわかった. スピン偏極光電子分光法を適用する物質として, まずYb_xLu_<1-x>B_<12>(X=1, 3/4, 1/2, 1/4, 0)を選び, シンクロトロン放射を光源として, 通常型光電子スペクトルを測定して解析した. 実測した光電子スペクトルには, 4f^<14>と4f^<13>による構造が観測され, 特に前者はフェルミ端近傍に出現する. Y_bの組成比が減少するとこの構造は急激に減少し, Ybの平均価数が+3に近づく. このことはYbの組成比の大きいところで, Y_b^<2+>とYb_b^<3+>の間に価数揺動が起っていることを示唆する. さらに実測スペクトルの計算機処理によって, スペクトルを試料の表面層からの寄与とバルクからの寄与に分離した. この結果, 表面成分とバルク成分では平均価数が異っており, Y_b組成が大きいところで, 前者が約2.4, 後者が約2.7であることがわかった. 今後スピン偏極度の測定を適用した解析を進めると共に, 他の物質系へも研究を拡張する計画である.
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