研究概要 |
鉄を含む三元シリコン化合物Lu-Fe-Siの超伝導に関する鉄原子の役割を明らかにする目的で, 化学量論組成で作製したLu_2Fe_3Si_5と, 組成をずらして作製したLu_2Fe_<3+x>Si_5およびLu_<2+x>Fe_3Si_5試料について, これまでに不足しているデータを補充する実験を実施するとともに, 新たに帯磁率の測定を行ない, これら試料の電気, 磁気および超伝導特性について系統的に研究した. 1.実験方法 (1)アーク熔解によって試料を作製し, その後所定の熱処理を実施した. X線回析およびXMA分析により, 試料の金属学的評価を行なった. (2)電気抵抗は直流四端子法, ホール係数は直流法と交流法を併用し, 帯磁率はファラデー法により測定した. 2.実験結果 (1)超伝導遷移温度Tcは, 化学量論組成において最大(6.1K)となるが, 組成がずれるにつれて減少する. とくに, 鉄の割合いが化学量論値の30%を越えたときに, 著しい減少が見られる. 上部臨界磁場Hc_2は, 温度の低下とともに直線的に上昇する. 直線の勾配(約1.5テスラ/K)は殆ど組成に依らずに一定である. (2)全ての試料の電気抵抗は, 温度の上昇とともに増加し, 金属的な振舞いを示す. また50K以下での抵抗は, 温度の自乗に比例するが, これは電子-電子錯乱の機構によって説明される. 試料の残留抵抗比は, Tcの振舞いと同様に, 化学量論組成で最大(約16)となるが, 組成がずれるにつれて減少する. (3)全ての試料の帯磁率は, 温度に依存せず, パウリの常磁性的な振舞いを示す. また, 鉄の割合いを化学量論値の30%よりも増加させたときには, パウリの常磁性は大幅に高められるが, これは鉄を過剰に含む試料においてスピンのゆらぎの影響が現われたものと考えられる.
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