研究概要 |
非平衡解放系の非線形ダイナミックスを散逸力学系の立場から作る気運が1980年前後から急速に高まってきた. その契機は運動形態の転移(分岐現象)に対する力学系理論の発展と, 閉水路系の流体乱流, 非線形化学反応, 非線形振動子等におけるカオス発生の物理的実験の登場である. 周期運動から非周期運動(カオス)が発生する普遍的シナリオとして, 周期倍化のカスケードによるもの, バーストが間歇的に現われることによるもの, 準周期運動を表わすトーラスが崩壊することによるもの, の3つが明らかになってきた. これら3つのシナリオによって発生したカオスを, それぞれ, 周期性カオス, 間歇性カオス, 準周期性カオスと呼ぶ. カオスの際立った性質(挙動と応答)は, 時間及び空間のスケールについて, 諸種のスケーリング則を示すことと, order in chaosと言われるように, 著しい時間相関・コヒーレンスを示すことである. 本研究は, 上記の3種のカオスのみならず, カオスの諸種の運動形態間の転移(バンド分裂, クライシス等)を解明することを目的とした. これが, 非線形非平衡系の統計物理への第一歩と考えられるからである. したがって, 非線形平衡系の普遍的運動形態であるカオスと乱流に対する統計力学的パラダイムの構築を目指して, 次の研究を行った. 1)タイプI及びIIIの間歇性カオスの大域的パワースペクトルの統計物理的理論. 2)カオスの奇妙なアトラクターのスケーリング構造の理論. 特に, (1)奇妙なアトラクターの特異点のスペクトルf(α), (2)カオスに内在する不安定周期点とf(α), Ψ(Λ)スペクトル, 3)カオスのスケーリング構造を時間的スケーリング関数における相転移(q-相転移)によって特徴づける方法の発見とその展開. 特に, カオスの粗視化された軌道拡大指数及び回転数の異常なスケーリング則, 等である.
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