研究概要 |
(1)"冷気塊(パーセル)"の概念を導入し, 冷気流の特徴的な厚さhと速度uを記述する簡単なモデル(パーセルモデル)を作成した. パーセルによる運動量と顕熱輸送を考慮することによりhとnは次のパラメータを用いて簡単な式で表現される:斜面に長さと落差, 一般場とパーセルの温位差, 平均バルク係数, 一般場の安定度. 平均バルク係数は斜面の空気力学的粗度によるだけでなく, 斜面長の減少関数でもある. 一般場が中立の場合, パーセルモデルはManins and Sawford(1979)のハイドローリックモデルと定性的に一致する. しかし一般場が安定の場合はやや異なる. 斜面長が数10m〜数100kmの斜面上で観測された冷気流の厚さと速度の観測値とパーセルモデルを比較したところ良い一致を見た. パーセルモデルは複雑地形(谷, 盆地, 山岳地域など)上の大気-地表面間のエネルギー交換を評価する上で有力な手段となる. (2)V字谷における風速と気温の三次元分布の観測から, 以下に示す冷気流の特性が明らかになった. 即ち, 典型的な冷気流は尾根の風速が2.6m/s以下の時発生するか, 谷内の冷気層は2層(drifted cold layerとprimary cold layer)に分かれる, drifted cold layerの温位分布は直線的である, 風速分布は放物線型に近い, 最大風速は冷気の強さの平方根に比例する, 最大風速の高度以下の風速は吹送距離にあまり依存しないが, 上部では吹送距離と共に増大する, 冷気層の厚さ(頂上から800m下流の地点)は冷気の強さと共にやや増大する. 頂上から400mと800mの地点における下流方向への熱流束は, それぞれ-1.01MWと-1.77MWであった. この差から求めた顕熱輸送バルク係数C_Hと底層スタントン数の逆数B_H^<-1>は0.01及び20であった.
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