研究概要 |
1.本研究の目的は、パルスラジオリシス法および電子スピン共鳴(ESR)吸収法を用いて、1,6-ヘキサンジオールおよび1,8-オクタンジオール単結晶に電子がどのように捕捉されるかを明らかにすることである。 2.ヘキサンジオール単結晶に-50℃で幅10ナノ秒の電子線パルスを照射したところ、パルス照射直後に550nmに吸収極大を持つ捕捉電子の吸収が観測された。このスペクトルは形を変えることなく単調に減衰した。このことは、放射線照射により生成した電子は、結晶中にあらかじめ存在する特定のサイトに捕捉されることを示している。すなわち、液体や無秩序固体中で従来考えられていた双極子の配向や緩和などは起こっていないことが明らかになった。 3.これらの単結晶に捕捉された電子のESRスペクトルには、水酸基のプロトンによる超微細構造が観測された。この電子を可視光で光励起したところ、ハイドロオキシアルキルラジカルのESR信号が増加した。この捕捉電子からラジカルへの変換効率をESR信号の積分強度から求めたところ、ヘキサンジオールでは93パーセント,オクタンジオールでは90パーセントという高い値が得られた。すなわち、ラジカルへの変換はほぼ定量的である。このことから、電子は従来考えられていたように、配向した双極子に取り囲まれた空孔の中央部に捕捉されているのではなく、水酸基とメチレン基が関与した特定の場所にアニオンの形で捕捉されていると結論された。 4.ab initio法を用いて予備的な計算を行ったところ、水素結合で結ばれたジオールクラスターの末端の水酸基が、上層ないし下層のメチレン基と会合した場所に電子は安定に捕捉され得ることがわかった。このモデルは、ESRスペクトルの超微細構造と光励起によるハイドロオキシアルキルラジカルへの変換を矛盾なく説明できる。
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