研究概要 |
今年度計画していたBEDT-TTF塩の電子構造に関する研究,BEDT-TTF類似塩の光学的研究,フェノチアジンラジカル塩の合成の全てを終了した。 1.BEDT-TTF塩の研究の目的はこれらのラジカル塩の2次元的な電子構造を実験的に検証し、光学スペクトルから電子構造に関する知見を得る事である。まず低温で金属絶縁体転移を示す2つのラジカル塩α-【(BEDT-TTF)_2】【I_3】とα-【(BEDT-TTF)_3】【(ReO_4)_2】、について室温から18Kの間の5つの温度で偏光反射スペクトルの測定を行った。その結果両塩とも室温では強いバンド間遷移に隠されて伝導電子によるバンド内遷移が光学スペクトルに顕著に現われていないが、温度を下げるにつれて次第に現われてきた。しかし相転移温度直下でバンド内遷移は反射スペクトルから急激に消えた。このようにBEDT-TTF塩の光学スペクトルはこれまでに知られている擬一次元的なラジカル塩とは様相を異にする事を見いだした。この様に強いバンド間遷移がバンド内遷移に重るという性質は二次元的な分子間相互作用を持つが故に現れるBEDT-TTF塩の特徴である。この様な事実を踏まえて超伝導転移を示す事で興味を持たれているθ-【(BEDT-TTF)_2】【I_3】塩の低温下の反射スペクトルを測定し、このラジカル塩の有効質量,フェルミエネルギー,伝導電子の緩和時間を決定した。 2.BEDT-TTFの類似塩であるBMDT-TTFの2つの(1:1)塩についてクーロンエネルギーと移動積分の値を見積った。解析に際して初めてハバードモデルの厳密解を使用し、従来の二量体モデルとの違いを論じた。BPDT-TTFについては2種のラジカル塩の移動積分の見積りを行い、二次元的な分子間相互作用が金属的な性質に重大な影響を及ぼしている事を明らかにした。 3.フェノチアジンを低温で電解酸化し、10種のラジカルル塩を合成した。金属的な単結晶は得られなかったが、(2:1)と(3:2)の化学量論比を持つ複雑塩を初めて見いだした。
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